AML with inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22);CBFB-MYH11

[概要]

AML with inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22);CBFB-MYH11は骨髄系、単球系の両方への分化を示す急性白血病で、FAB分類ではAcute myelomonocytic leukemia(M4)ないしはAcute myelomonocytic leukemia with eosinophilia(M4Eo)に分類されることが多い。しかし、骨髄系と単球系への分化の程度は症例ごとに異なり、AML with maturation(M2)と診断される例も少なくない。また、スミレ色〜紫色の好塩基性粗大顆粒を有する幼若好酸球の出現が特徴的である。この所見は前骨髄球から骨髄球の段階で顕著に認められ、末梢血中にはほとんど認められない。この異常好酸球は好酸球増加の程度にかかわらず認められる。

頻度はAML全体の5%~8%で、比較的若年者に多い。シタラビンを中心とした寛解導入療法と寛解後療法によりAMLの中では比較的良好な治療成績が認められている。

[症例1]

12歳、女性。10日前より帰宅後に疲労感を訴えるようになった。前医を受診し、血液検査で異常を認めたため紹介受診。既往歴、家族歴に特記すべきことはない。身体所見では、顔色不良で、眼瞼結膜は貧血様、胸腹部、背部、四肢に紫斑を多数認める。肝臓を右肋骨弓下8cm、脾臓を左肋骨弓下8cm触知する。

[末梢血検査所見]

WBC68900/μL
 Blast39%
 Myelo2%
 Seg2%
 Stab1%
 Lympho20%
 Mono33%
 Eosino3%
RBC162万/μL
Hb5.3g/dL
Ht15.7%
MCV96.9fL
PLT1.5万/μL
Ret0.3%

[骨髄形態診断]

骨髄は正形成、顆粒球系、赤芽球系、巨核球系はいずれも減少している。骨髄芽球を40.4%、前単球を12.0%認め、芽球相当の細胞の合計は52.4%である。骨髄芽球はMPO染色陽性、前単球はαNBエステラーゼ染色陽性でNaF阻害あり、ASDエステラーゼ染色陰性である。好酸球を3.8%認め、それらに好塩基性の粗大顆粒を認める。単球は22.3%と増加している。顆粒球系の10%〜50%未満に偽ペルゲル核異常、低顆粒、巨核球系の10%未満に微小巨核球の異形成所見を認める。末梢血では単球が27905/μLと増加し、FAB分類AML M4に相当する所見である。

中型と大型の2種類の幼若細胞の増加が認められる。好酸球の増加もみられる。

骨髄芽球は中型、N/C比大、細胞質は好塩基性で核網は繊細である。単球系幼若細胞(前単球)は大型、細胞質は灰青色で微細なアズール顆粒を有し、核は不整形で大型の核小体を有する。

好酸球は好塩基性の粗大顆粒を有している。

好中球に偽ペルゲル核異常を認める。

MPO染色(左)は骨髄芽球、単芽球ともに陽性を示している。

単球系細胞の非特異的エステラーゼ染色陽性(左)はNaFで阻害され陽性所見が消失している(右)。

エステラーゼ2重染色では、骨髄芽球と単球系幼若細胞の混在を認める。

[骨髄血細胞表面マーカー]

マーカー陽性率(%)
CD3328
CD1397
CD3493
HLA-DR98
CD50
CD148
MPO84
CD11783
CD1532
CD6434

[染色体・遺伝子検査]

[染色体]G分染法(PHA無添加24・48時間培養)
46,XX,inv(16)(p13.1q22) [10]
47,idem,+8[9]
48,idem,+8,+22[1]

[キメラ遺伝子スクリーニング]
CBFB-MYH11 157200 コピー/μg RNA

FLT3-ITD]
検出されず

[解説]

骨髄芽球と単芽球の増加はAML with inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22);CBFB-MYH11特徴的所見である。骨髄芽球と単芽球には連続性があり判別が困難なこともあるが、単球系細胞に染まる非特異的エステラーゼと好中球系細胞に染まるクロロアセテートエステラーゼを同時に染色するエステラーゼ二重染色が両者の芽球比率を判定するのに有用である。

細胞表面マーカーは、骨髄系マーカー(CD13、CD33、CD15、CD65、MPO)と単球系マーカー(CD64)がともに陽性を示し、白血病細胞が骨髄単球系であることを示唆している。

染色体検査では、t(16;16)(p13.1;q22)の他にsub lineで+8,+22を認めているが、これらの付加的異常はこの病型に比較的高頻度にみられるもので、臨床的意義は乏しいとされている。

[症例2]

10歳、女性。発熱が3日間持続し前医を受診し、血液検査で白血球増加を指摘された。既往歴、家族歴に特記すべきことなし。身体所見で、体温39.1度、胸腹部、四肢に点状出血斑が散在。肝臓を右肋骨弓下2cm、脾臓を左肋骨弓下5cm触知する。

[末梢血検査所見]

WBC78500/μL
 Blast50%
 Stab3%
 Seg5%
 Lympho21%
 Eosino8%
 Mono13%
RBC367万/μL
Hb11.2g/dL
Ht33.1%
MCV90.2fL
PLT2.2万/μL
Ret0.7%

[骨髄像形態診断]

骨髄は過形成、顆粒球系は増加、赤芽球系は減少、巨核球系は標本上認められない。骨髄芽球を35.6%、単芽球を21.0%、前単球を1.3%認め、芽球相当の細胞の合計は57.9%である。骨髄芽球はMPO染色陽性、単芽球、前単球はαNBエステラーゼ染色陽性で、陽性細胞はNaFで阻害され、ASDエステラーゼ染色陰性である。単球が16.7%と増加している。好酸球が7.1%と増加し、その中にスミレ色〜紫色の好塩基性粗大顆粒を持つ好酸球が認められる。顆粒球系の10%〜50%未満に偽ペルゲル核異常、低顆粒の異形成を認める。

やや小型、N/C比大で好塩基性の細胞質、核網繊細な骨髄芽球と、中型から大型、細胞質は灰青色で辺縁は好塩基性、微細顆粒を有し、核網繊細で大型の核小体をもつ単芽球との、2種類の芽球の増加を認める。好中球に偽ペルゲル核異常、赤芽球に核融解像を認める。

骨髄芽球と単芽球、前単球が混在している。

好酸球にはスミレ色〜紫色の好塩基性粗大顆粒が認められる。

芽球はMPO染色陽性である。

[骨髄血細胞表面マーカー]

マーカー陽性率(%)
MPO91
CD11774
CD1398
CD1544
CD3356
CD6421
CD6528
HLA-DR92
CD3477

[染色体・遺伝子検査]

[染色体]G分染法(PHA無添加24・48時間培養)
46,XX,inv(16)(p13.1q22)[20]

[キメラ遺伝子スクリーニング]
CBFB-MYH11 319200 コピー/μg RNA

FLT3-ITD]
検出されず

[解説]

骨髄芽球と単球系幼若細胞(単芽球、前単球)の増加、紫色の粗大好塩基性顆粒を有する幼若好酸球の増加など、 AML with inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22);CBFB-MYH11に典型的な所見を認める。さらに好酸球が全骨髄有核細胞の5%以上を占め、FAB分類ではM4 Eoの病型となる。

好中球の偽ペルゲル核異常や赤芽球の核融解像が認められているが、このように多系統の細胞の異形成もこの病型で少なからず認められる。

inv(16)やt(8;21)の病型では、白血病細胞が分化傾向を有するため芽球比率が比較的低い症例もあるが、芽球比率が20%未満でもAMLと診断される。

参考文献

  • Marlton P, Kea ting M, Kantarjian H,et al. Cytogenetic and clinical correlates in AML patients with abnormalities of chromosome 16. Leukemia. 9:965-71. 1995

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